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    【ディオールの調香師が語る】 香水で物語を紡ぐ技

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    彼は調香師(パフューマー)の仕事を“劇場監督のようなもの”と話す。

    人が生活のなかで体験するいくつかの素晴らしい瞬間を、経験をもとに噛み砕き、それを香りとして編んで表現していく。その香りは誰かが纏うことで、さらにストーリーを膨らませる。

    彼は大勢に好かれる香水の提案にはとどまらない。生み出すのは、ストーリーを求める人が本能で欲する確かな香りだ。

     

    “香りが大衆化”したからこそできることがある


     

    女性のバッグの中身を香りで表現する

    香水ごとにその過程は毎回違います。最初に名前を決めてから香水作りを始めることもあって、例えばグランヴィルという香水がそうです。これはムッシュ・クリスチャンディオール氏にゆかりのある場所で、その街からロマンスの物語を広げていきました。またキュイールカナージュという香水は、女性のバッグの中身を香りで表現するという発想から生まれました。私なりの解釈で、バッグの中ってこういう香りなんじゃないかと想像するわけです。まずレザーの香りがして、それから口紅のすみれやローズのような香り、書類などの紙類はグリーンノートかな、というふうに。

     

    香りへの解釈は偏見にすぎません

    香りの嗜好には個人差があるからこそ、私自身が日々の生活のなかで経験や出会いを重ねる必要があるのです。それが香りの情報となります。旅に出ることも大きなヒントになりますね。今朝もホテルで手を洗ったら、その石けんの香りが非常によかったのでノートに記しました。香りの解釈は、初めは私の偏見に基づいたものかもしれないけれど、それは前に進んでいくものになります。そうして何度も改良を重ねて、皆さんに提案するのです。香りは儚いものですから、ためらっていては消えてしまいます。

     

    男性がセクシーになれる香り

    本物のアンバーグリスは男女ともに魅惑的な香りだと感じると思います。香水のなかでもっともミステリアスな香りなのですから。私たち哺乳類は、無意識に香りとの関わりをもっています。体の中にホルモンが流れているからです。そのホルモンにもっとも近い香りがアンバーグリスなのです。

     

    香りの民主化への危機感

    ひとつ言えるのは、文化が成熟のレベルに達すると、人は香りに興味をもつようになるということです。日本人も、世界中を旅行するようになって食生活も文化も変わり、部屋でお香をたく文化から人が香りをつける文化に変わりましたよね。ただ、ひとつ残念なのは現代ではあらゆるものに香りがつけられ、香りが過度に民主化されてきていることです。いくつかの均ーな匂いのなかに閉塞して、しかもそれが安易なもので、本物の上質な香りではないことに懸念をいつも感じています。

     

    大衆化された香りを超えるもの

    私たちディオールは、大衆化された香りを超えるものをつくろうと日々取り組んでいます。それを求める意欲ある人たちのための香りです。純度の高いエッセンスを使い、人から注目を浴びるような、あるいは挑発的なストーリーに満ちた香りを生み出すことに力を注いでいます。

     

    謎に包まれている調香師の仕事


     

    Perfumer-Work1 Perfumer-Work2 Perfumer-Work3

     

    調香の仕事はタ方から始まる。料理のレシピのように助手に要素を伝える。すると翌朝にその通りの香水が用意される。それを感性が研ぎ澄まされた朝の空腹時にかぐのだが、するとたいていはイメージと違う結果になるという。そのギャップが埋まるまで調合を繰り返す。またボトルのデザインについてデザイナーとも話し合い、新作では“香水が前面に出るもの” というリクエストを出し瓶を透明にした。容量の見える、より機能的なデザインでもある。

     

    Dior-Parfum-Collection


    francois-demachyフランソワ・ドゥマシー

    クリスチャンディオール調香師
    香水の聖地グラースで幼少時代を過ごし、自然な流れで調香師をこころざす。2006年にディオールの調香師として就任。現在はパリのラボに勤務。香水は「コローニュロワイヤル」を愛用。